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好きな物こそ、頭から信じず、まず疑い、信じるに足るか考察する

【企業法務:レベル1/5】業務委託契約審査のポイント1

目次

業務委託契約審査業務のoutput記事です

本記事概要

  1. 契約
  2. 業務委託契約
  3. 請負と準委任
  4. 契約不適合責任
  5. 無過失責任と責任期間
  6. 協力義務
  7. 損害賠償責任

契約とは

相対立する意思表示の合致により、法的効果を生じさせる法律行為

法務犬

日本は口頭でも契約が成立します(不要式主義)

契約書を作成する理由は

  • 合意の内容を明確化し記録を残す
  • 紛争等リスクの見積り

以下check例

  • 契約の成立から終了までの必要な項目がすべて規定されているか(例:知的財産権の帰属、個人情報取り扱い等)
  • 契約書に定めていなくても民法や商法が適用されることがある(例:「民法を適用しません」と意思表示を望むなら、その旨を契約書に定める必要がある)
  • 法令を順守している内容か(例:下請法、労働者派遣法、個人情報保護法)

業務委託契約とは

非典型契約(請負or準委任、請負and準委任 の性質を有する)。売買と請負両方の性質を有する契約もあります。

小魚

請負か準委任契約かを契約書に明記する。
・委託した業務が完成を目的とするか否か
・法的性質の明記

第●条(法的性質)
甲及び乙は、本契約が、アストロダイスプログラム構築の完成を目的とするものであり、請負契約の性質を有するものであることを確認する。

請負とは

仕事の完成が目的

  • 仕事の完成に責任を負う
  • (原則として)完成しないと報酬請求権は生じない
  • 無過失責任である契約不適合責任が生じる
  • 完成できればいいので下請(再委託)が可能 ←契約で定めていなければ

当事者の一方(請負人)がある仕事を完成することを約し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約すること。 【民法632条】

準委任とは

事務処理をさせること、行為を遂行させることが目的。業務の遂行

  • 業務の遂行があれば報酬請求権は生じる
  • 善管注意義務違反があれば債務不履行責任が生じる
  • 信頼関係に基づいているので復位任(再委託)は禁止  ←再委託可能と明記すれば可能になる(相手方同意要)

当事者の一方(委任者)が法律行為でない事務の処理を相手方(受任者)に委任すること 【民法656条、643条】

委託業務について

業務の内容 = 契約の目的
依頼者側と受任者側双方で業務内容は明確に契約書に記しておくこと。どこまでが業務内容のか(製造まで?提案まで?)→紛争予防

  • 請負か準委任かまず判断する
  • 請負の場合→契約不適合責任の範囲が決まる
  • 準委任の場合→痛く業務の具体的内容と範囲が決まる

契約不適合責任

引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課すものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。【民法562条1項】

別途要件を満たせば、契約解除権、債務不履行に基づく損害賠償責任が生じる 【民法564条】

金魚

契約不適合責任なので請負契約の話。売買契約で定めている条項なので上記民法には買主、売主と書いてありますが、これは請負契約にも適合されます。
準委任について契約不適合責任が適用となる余地はないと考える弁護士見解が一般的。
契約不適合責任以前に善管注意義務違反が生じる。

法務犬

●●する義務はない、と契約書に明記しておくことが重要

引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合した場合の担保責任。

【過失】注意義務(=結果予見義務及び結果回避義務)違反

 *注意義務が存在していることが前提

【重過失】著しい注意義務違反  裁判例:東京高裁平成25年7月24日判決

法務犬

条項例
第●条(責任制限)
甲は、乙が本件製品の使用によって被った損害について、一切の責任を負わない。ただし、当該損害が甲の故意又は重大な過失によって生じた場合は、この限りではない。

※ただし以降の箇所はあっても意味はありません。法的効果はなし。
故意または重過失がある場合には責任は制限されないためです。

法務ライオン

責任制限条項の有効性
1)事業者間の責任制限条項
→基本的に有効
2)事業者・消費者間の責任
→全部免除は無効【消費者契約法8条1項1号、3号】
→一部免除は原則有効(反対解釈)
3)故意・重過失がある当事者の責任制限
→無効【消費者契約法8条1項2号、4号】+判例裁判実務
4)身体・生命の損害の責任制限
→無効【民法90条】公序良俗違反

故意・重過失がある場合に責任が生じる、は有効。これについて賠償額を制限するとなると、重過失は故意に等しいので基本的には信義則上その請求ができないのでは(弁護士見解)。

黒子

裁判例:最高裁平成15年2月28日判決
宿泊客の物品の滅失・棄損に対する損害賠償義務の範囲を制限する宿泊約款の定めの効力が争われた事例

裁判所判断:故意・重過失の場合でも損害賠償義務の範囲が制限されるということは(中略)・・当事者の意思に合致しないというべきであり、本件特則はホテル側に故意または重過失がある場合は適用されないと解するのが相当です

【無過失責任(過失がなくても責任が生じる)】

  1. 追完請求権(修補か代替物引渡しか、不足分引渡しかの追完対応。まず買主側で選択可能。最終的選択権は売主側)
  2. 代金減額請求権(二次的な請求権。上記1対応でも売主側が満足しないなら)
法務犬

リスク防止point
契約条項に明確に定める 民法の原則を修正したい場合

  • 時期を明確に定める:例 引渡しから1年
  • 最終的な決定権を明確に定める:例 買主の指示に従い~
  • 選択肢を増やしたい場合:例 代金の減額若しくは返品に応じなければならない
  • 民法適用外としたい場合:例 この場合、民法561条第1項但書は適用しないものとする

【責任期間】種類・品質の不適合の場合

原則:買主が受け取って不具合があることを知った時から1年以内に通知しないと請求不可【民法556条】

   ※請負は売買ではないので消費売買の条項は適用されず1年の期間を定めている

例外:商人間の売買は目的物受領後6カ月【商法526条2項】

【品質に関する「契約不適合」の意義】 ※旧民法の「瑕疵」と同じ内容

  1. 通常備えるべき品質・性能を有していない
  2. 合意の内容として備えるべき品質・性能を有していない

point
業務内容を明確にする
・契約が適合するか否かは、委託した業務の内容によって定まるので、業務内容は可能な限り明確に
・目的物の使途や契約の目的から、備えるべき品質・性能が判断されうるので、使途や目的を定めておく


第●条(目的)
委託者は、委託者が一般消費者に販売するアストロダイスの製造を委託し、受託者はこれを受託する。

法務犬

受託者の協力が必要になる場合は、協力義務も明記しておくこと

第●条(協力義務)
受託者は、受託業務の円滑かつ適切な遂行のためには、受託者による適時・適切な情報提供が不可欠であることを認識し、受託者が求めた場合には、遅滞なく必要な情報を提供する。

偽装請負リスク予防は、担当者の偽装請負理解度にも一任。

著名な裁判例

黒子

請負と準委任の区別の基準:契約の名称にかかわらず、契約の具体的な目的から判断されます(裁判例:昭和57年11月29日判決)
仕様も決まっていないのに色々作ってみて受注側が全て責任を負うのはリスクが高い。
この種の契約をするにあたり
(1)注文者において(仕様等具体的指示)能力がある場合は、詳細な設計、仕様、工作方法等を定めて制作を依頼する
(2)注文者にその能力がない場合は、製作者において注文者から当該商品の使用目的や大まかな規格等を聞いたうえ、注文者が満足するまで試作を重ねたうえ、注文者が満足した段階で当該試作品の設計仕様、工作方法に基づく商品政策の注文をうけることとなるのが通常

アサギマダラ

請負契約と認められなかった事例
(裁判例:東京地方裁判所平成20年9月11日判決)
原告(発注側)が解散業務の一環として、被告(受注側)へデータを提供し、数理計算を依頼。
裁判所「業務の法的性質が請負契約ではなく、準委任に該当します」→瑕疵担保責任を否定。仕事の完成を目的としていない。あくまでも適正な数理計算を行えばよい内容。

黒子

システム開発の裁判例。
(裁判例:東京地裁八王子支部平成15年11月5日判決)

原告(発注者)がシステム構築を被告(受注者)へ委託。

原告が被告へ提供した情報が不正確。原告業務の実態と小尾tなる情報を前提として構築されたものであったとしても被告に責任があるとはいえない。瑕疵にはならない。

損害賠償

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときはこの限りではない。【民法415条1項】

エンジニア犬

損害賠償責任の要件
債務不履行は2パターンあります
債務不履行+帰責事由が損害賠償の要件

下記2つについて、  契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして判断【民法412条の2第1項】

  1. 履行遅滞及び不完全履行:債務の本旨に従った履行をしないこと
  2. 履行不能:債務の履行が不能であること

帰責事由【民法415条1項但書】 債務者が帰責事由がないことについて立証責任を負う

債務者側の故意・過失及び信義則上同視することができる事由(履行補助者の故意・過失等)

損害賠償の範囲【民法416条】

  • 原則:通常生ずべき損害(通常損害)【民法416条1項】=相当因果関係の損害
  • 例外:当事者がその事情を「予見すべき」であった「特段の事情によって生じた損害(特別損害)【民法416条2項】

※契約条項の中でこの民法の原則を変える場合、様々なパターンが考えられる

  1. 責任範囲を限定
  2. 賠償範囲を限定
  3. 賠償額を限定

1:責任範囲を限定する場合 

法務犬

債務不履行による損害賠償責任の要件(債務不履行+帰責事由
帰責事由を限定する形です。債務不履行は限定しづらいため。

条項例
甲及び乙は、本契約に違反し、相手方に損害を生じさせた場合、相手方に対し、故意または重過失があるときにかぎり、当該損害について賠償する責任を負う。

2:賠償範囲を限定する場合

法務犬

条項例
甲及び乙は、本契約に違反し、相手方に損害を生じさせた場合、相手方に対し、通常の損害に限り賠償する責任を負う。

賠償の対象となる損害は2タイプ。通常損害特別損害があります。
特別損害の中で、損害を負いたくないものを具体的に明記する例は以下。

条項例
いかなる場合にも、逸脱利益及び第三者からの損害賠償請求に基づく損害については、責任を負わない。

3:賠償額を限定する場合

法務犬

金額を制限します。 損害賠償責任=金銭債務
ここが不明確だと後々トラブルの火種になることがあります。

条項例
・乙の甲に対する損害賠償責任は、その原因となる事由の発生時から遡って1年間に乙が甲から受領した報酬の額を超えないものとする。
・乙の甲に対する損害賠償責任は、本契約に基づき乙が甲から支払いを受けた報酬の額を超えないものとする。
・乙の甲に対する損害賠償責任、債務不履行責任、瑕疵担保責任、その他請求原因の如何にかかわらず、金●●●円を超えないものとする。

黒子

現実に発生した通常かつ直接の損害  という言葉を契約書で見かけることがあるけれど、どういう意味??

裁判例:東京地裁平成24年3月29日判決
「現実に発生した通常かつ直接の損害」が原告と被告間の締結書面の条項に記載されていました。
裁判所見解:「現実に発生した通常かつ直接の損害」の箇所は特段検討しません。
「損害賠償責任については、損害賠償額の限度を定める上記の条項が適用される」としたうえで、委託者が受託者に支払った代金とシステムのための設備費用と逸失利益を損害と認定。
責任限定については、料金相当額だけで判断しました。
  ↓
じゃあ「現実に発生した通常かつ直接の損害」を契約書の条項に書くのは無意味?
  ↓
直接があるなら間接は?となる。
直接損害、間接損害は曖昧。あまり意味がない。特別損害が除外された程度。特別の意味をもたせたい、逸失利益を除きたいとき、損害賠償を否定したいときは、明確化が必要。
法的には、第三者に生じた損害を第三者が賠償する場合は間接損害という。
被害者が第三者に損害賠償した金額は、被害者にとっては直接損害といえる。
裁判例:損害賠償精度は被害者に生じた現実の損害を填補することによって損害の公平な負担を図ることを目的とする

・直接被った損害→相当因果関係にある損害を指すのが一般的
・通常【民法416条1項】(相当因果関係のある)
・現実の損害→現実に支払った額に限らず、本来受け取る予定だった額も指します。

・特別損害と逸失利益の違い→特別損害は、当事者が予見すべき特別の事情から生じた損害。特別の事情があることが前提。逸失利益は、特別の事情がなくても通常生ずべき損害。

・特別損害例:売買契約で、「目的物の引渡し後に転売予定」の説明を事前に相手へ行っていた(相手が予見していた)のであれば、その目的物を他へ引渡してしまった場合の転売益が特別な損害にあたる。

法務ライオン

排除の趣旨を明確にした条項例
甲及び乙は、予見の有無を問わず特別の事情による損害、逸失利益及び第三者からの損害賠償請求に基づく相手方の損害について、責任を負わない。

中途解約

法務犬

注文者が「いらない」と言っているので解除権を認めています。
けど、請負人側としては仕事を開始したあとなので、中止した時点までの請負品を納品しそれまでの対価をうけとります(注文者側もその納品物を活かせるよね)。

請負・準委任共に民法上では途中解約可能となっているが
請負:損害の範囲が不明確
準委任:不利な時期・受任者の利益を目的の該否が不明確
なので上記を明確にして紛争予防。

法務犬

条項例
第●条(中途解約時の精算)
受託者は、第●条により、本契約を解約した場合には、受託者に対し、出来高や進捗率に基づき両者が合意により算出した金額を支払う。

以下明確に
・出来高  ←この計算方法が多種多様にあります
・進捗率
・両者が合意により算出した金額に出来高と進捗率以外の事項を考慮できる可能性  ←結局両者の合意でしか決められないなら裁判に至る・・・裁判上の和解に至る可能性がある。

以下紛争予防のための条項例。業務委託契約は中途解約が多い契約。
条項例
第●条(中途解約時の精算)
委託者は、第●条により本契約を解約した場合には、受託者に対し、次の計算式により算出した金額を支払う。
第●条(中途解約)  義務付けする
甲は、本契約期間中といえども、乙に対し解約日から契約期間満了日までの業務委託料相当額を違約金として支払うことにより、本契約を解約することができる。

・請負:注文者は、仕事の完成までは、いつでも損害を賠償して解除できる【民法641条】

 ※可分な部分の給付によっては注文者が利益を受けるときは報酬一部請求権あり【民法634条】

・準委任:任意解約権を放棄していない限り、中途解約が可能【民法651条1項】

 ※既履行の割合に応じて報酬請求可能【民法648条】

 ※ただし次の場合は損害賠償責任【民法651条2項】

1)不利な時期に解除した場合

2)受任者の利益を目的とする場合

黒子

裁判例:東京地裁平成16年3月10日判決
裁判所判断:民法641条による解除の効果は、将来に向かって生じるものと解するのが相当であるから、被告は、既作業部分に相応する報酬と、未作業部分に相応する被告の逸失利益及び当該作業のために既に支出した費用の支払を、原告に請求することができる。

珍しい判例。
事例によって裁判所判断異なる。もはや運ゲー。

この記事を書いた人

【1】鑑定歴:20年以上
【2】占い得意分野:選択全般、ビジネス、人間関係(相手の気持ち)、学業
【3】経歴:修士号(知的財産系)
      知財法務職
      開発技術職
【4】他:招待制が基本ですが、飛込の新規客へはVRアバターか画像共有なしのonline 通話で対応致します

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